成年後見に関する死後事務について

「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成28年10月13日施行)により、「郵便転送関係」と「死後事務関係」が改正されましたが、このうち成年後見の死後事務について紹介します。

成年被後見人が死亡した場合には,成年後見は当然に終了し,成年後見人は原則として法定代理権等の権限を喪失します。しかし,実務上,成年後見人は,成年被後見人の死亡後も一定の事務(死後事務)を行う場合があります。民法改正により、成年後見人が成年被後見人の死亡後にも行うことができる死後事務の内容及びその手続が明確化されました。(民法第873条の2)ただし、成年後見のみを対象としており,保佐,補助,任意後見には適用されません。

成年後見人が当該事務を行う必要があり、相続人の意思に反することが明らかであるとの事情がない場合,相続人が相続財産を管理することができるに至るまで,(1)相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為,(2)相続財産に属する債務の弁済、(3)本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為を行うことができます。

(1) 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為の具体的な例として、①相続財産に属する債権について時効の完成が間近に迫っている場合に行う時効の中断(債務者に対する請求。民法第147条第1号)、②相続財産に属する建物に雨漏りがある場合にこれを修繕する行為、などがあります。

(2) 相続財産に属する債務の弁済の具体的な例として、成年被後見人の医療費,入院費及び公共料金等の支払などがあります。

(3) 本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為の具体例は次のとおりです。

  1. 本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(葬儀に関する契約は除く)
  2. 債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し
  3. 本人が入所施設等に残置していた動産等に関する寄託契約の締結
  4. 電気・ガス・水道の供給契約の解約

成年後見人が⑶の行為を行う場合は、裁判所に申し立てを行い、審判を受ける必要があります。申し立てにあたって、成年後見人が該当する行為を行う必要性があること,本人の相続人の意思に反することが明らかであるとの事情がないこと,本人の相続人が相続財産を管理し得る状況にないことの要件を満たしていなければなりません。

遺骨の引取り手がいない場合,成年後見人において遺体の火葬とともに納骨堂等への納骨をする行為は、「死体の火葬又は埋葬に関する契約」に準ずるものとして,家庭裁判所がその必要性等を考慮した上で,その許否を判断することになります。ただし、成年後見人が葬儀を執り行うことまでの権限は与えられておりません。